2018年9月16日日曜日

書評『創価学会』(田原総一朗著)

 結論から述べる。この本は池田大作礼賛本であり、はっきり言ってほとんど読む価値は
ない。まず、この本のダメさ加減がよくわかる箇所を引用する。


> 田原 その池田さんは、2010(平成22)年6月以降、幹部総会など公の場には出られ
> ていませんが、特に体調を崩されているというわけではないんですよね。
> 原田 もちろん、お元気ですよ。いまは執筆などを主な活動とされています。


 これは巻末に収録されている原田会長へのインタビューでのやり取りだが、田原氏は池
田は健在だという原田会長の説明にいっさい疑問を差し挟まず、諾々と聞き入れるばかり
である。

 池田大作の健康問題があれだけ騒がれ、重病説まで報じられたにもかかわらずである。
ジャーナリストとしての声望を、自ら地に落としているのに等しいだらしなさである。

 創価学会について何の知識もない人がこの本を読んだならば、「創価学会は、かつては
強引な折伏や言論出版妨害などの問題を引き起こしたが、それは若い組織であるが故の未
熟さが原因だったのであり、現在ではそうした短所は是正され、世界宗教として発展して
いる。また、日蓮正宗と抗争して破門されるまでに至った件についても、山崎正友や阿部
日顕が悪いのであり、創価学会に落ち度はない」という印象を受けることだろう。

 あまりにも創価学会にとって都合のよすぎる内容であり、はなはだしい偏向と言わざる
を得ない(それでも学会員ならば、「過去の件についても邪宗の奴らが悪い」と言うのだ
ろうが)。

 この本にも同意できる箇所がないわけでもない。
 創価学会が他の宗教を邪教呼ばわりしてきたことについては批判し、言論問題について
は「どう考えても言論弾圧」と指摘している。

 だが、それらはあくまでも「過去の問題」という扱いで、今の創価学会には何の問題も
ないのだと言わんばかり論調である。特に池田大作の数々の悪行については、まったく触
れられておらず、冒頭で述べたように、池田礼賛本としか言いようがない。

 具体的な問題点をいくつか指摘してみる。
 田原氏は、過去に2回、池田大作と面会したことがあると述べ、その際に受けた印象を
こう書いている。


>  もう一つ、私が池田に感じたのは、自分をよく見せようという下心がまったくなく、
> 誠実で相手のことを気遣うことのできる、きめ細やかな神経の持ち主だということだ。
> 〝私心がない〟、つまり無私なのだ。


 池田大作は「自分をよく見せようという下心」の塊のような俗物である。『人間革命』
をはじめ、池田名義で出版された書籍のほとんどは、実際には部下が代筆したものに過ぎ
ないことは、多くの脱会した元幹部が暴露している。「私心がない」高潔な人物が、そん
なことをするはずがないではないか。

 また、二度の宗門問題についての記述は、全面的に創価学会側の視点に立っており、ま
ったく公平性を欠いている。

 本書では昭和52年(1977年)の第一次抗争について、当時、創価学会の顧問弁護士だっ
た山崎正友氏が「経済的な野心」から、創価学会についてウソを宗門側に吹き込んだこと
が事態を悪化させた最大の原因だとしている。

 創価学会が破門された平成2年(1990年)から翌年にかけての第二次抗争についても、
当時の大石寺法主、阿部日顕氏が池田大作に嫉妬したことが理由だとされている。


>  では、宗門がここまで創価学会を攻撃しようとした動機は何だったのか。まずは、
> 先の谷川に事の経緯を問うた。
> 「創価学会としては当座当初から日顕を非常に立てていました。ところが、学会員た
> ちが本当に尊敬しているのは名誉会長なので、それが正直に態度に表れるわけです。
> 例えば、文化祭などで名誉会長が登場するとわっと歓声が上がる。しかし日顕に対し
> てはそうはならない。それが宗門側としては面白くなかった。要するに嫉妬していた
> わけですね」


 田原氏は谷川副会長の説明をそのまま聞き入れており、本書には、もう一方の当事者で
あった日蓮正宗側の言い分は、ほとんど記載されていない。

 山崎正友氏は様々な謀略に加担してきた人物であり、策を弄する面があったのは事実で
あろう。阿部日顕氏にしても、その人間性を疑いたくなる話もある。

 だが、日蓮正宗との抗争については、私は創価学会側の非の方が大きかったと考える。
 宗門の僧侶たちが池田大作を問題視したのは、彼が学会員たちから人気があることに嫉
妬したからだとも思わない。

 宗門が創価学会を批判し続け、破門までした最大の理由は、「池田本仏論」であろう。
 池田のような下劣な俗物を宗祖日蓮と同格視するなど、僧侶にとっては許しがたい冒涜
だったはずである。

 そして、池田が起こしてきた女性問題等の数々の騒動や、池田本仏論などの教義からの
逸脱については、本書ではまったく触れられていない。

 本書の帯には「創価学会論の決定版!」という自賛があるが、トンデモ本と言われても
仕方ない出来である。

 田原氏ほどの著名なジャーナリストが、このような駄本を執筆した理由はなんであろう
か。この本の真の目的が露見していると思われる箇所を示す。


>  私はテレビ番組などで公明党の山口那津男代表に会う機会が多い。会うたびに彼に
> は、「ハト派を代表して自民党のブレーキ役になってほしい」と伝えている。
> 「それこそが本来の中道派の役目だと思います」
>  山口は力強くうなずいた。


 要するに田原氏は、現在の自公連立政権の枠組みが維持されることが望ましいと考え、
創価学会・公明党をヨイショしたわけである。

 田原氏は実績あるジャーナリストであり、池田大作のようなペテン師とは比べものにな
らないが、それでも彼らには共通点があると私は思う。

 それは「大衆とは操作可能なものであり、自分にはそれをなす資格があるのだ」という
思い上がりである。本書は一貫して池田に好意的だが、それは著者が自らと相通じるもの
を嗅ぎ取ったからなのかも知れない。


 ※ 『創価学会』(毎日新聞出版)は、2018年9月8日付で発行された。
   毎日新聞社は、聖教新聞の印刷を請け負っており、それなしでは経営が成り立たな
  いと言われている。その100%子会社である毎日新聞出版から出版される本だという
  時点で、偏った内容になるのではないかと危惧していたのだが、正直、ここまで酷い
  とは予想していなかった。