2017年5月20日土曜日

紙を飲む宗教②

 ※ 承前 紙を飲む宗教①

 護秘符は『人間革命』全12巻中、第七巻に一回(前回引用)、第八巻に三回の計四回登
場する。『人間革命』において、護秘符が誰に使われ、どのような結果をもたらしたと述
べられているかを、以下、掲載順に記す。


事例1
対象:四歳くらいの男児
疾患:血友病(『人間革命』でこの件が描かれている昭和28年当時、治療法がなかった)
結果:一時的な症状の緩和(完治したとの記述はない)

事例2
対象:三歳の女児
疾患:交通事故による瀕死の重傷
結果:奇跡的な回復(後遺症の有無等の記述はない)

事例3
対象:暴力団幹部の男性
疾患:重度のモルヒネ中毒
結果:完治

事例4
対象:学会の男子部員(山之内俊彦)
疾患:鉄道事故による瀕死の重傷
結果:死亡(『人間革命』は「成仏の相」と記述)


 最後の事例以外、護秘符の服用により良い結果が得られたと『人間革命』は記している
が、不信心者の私から見れば、どうも胡散臭い。

 血友病の男児と交通事故の女児については、『人間革命』にはその後の記述がないため、
本当に治ったのか、後遺症はなかったのか不明である。

 両事例が仮に事実だったとしても、護秘符を飲んだのと同時期に、たまたま一時的に症
状が緩和だけに過ぎないのではないかと、疑わざるを得ない。特に血友病の場合、当時は
有効な治療法などなかったのであるから、その可能性は高い。

 『人間革命』では、都合のいい事実だけをトリミングして描き、奇跡的な回復があった
ように見せかけているだけではないかと思われる。 

 三番目の事例では、モルヒネ中毒が治ったとされている。これも本当なら喜ばしい限り
だが、私としては疑いの目を向けざるを得ない。

 モルヒネは極めて強い依存性を持ち、その中毒は薬物依存症の中でも、特に治療困難と
される。アルコール中毒などより、ずっと厄介な中毒なのだ。

 以前述べたように、戸田城聖のアルコール中毒は病膏肓に入るものだった。そして戸田
は、それが原因で肝硬変となり、命を落とした。

 護秘符で重症のモルヒネ中毒が治るのなら、なぜ戸田城聖のアルコール中毒は治らなか
ったのだろうか。

 前回引用したが『人間革命』第七巻によると、「信心がなければ護秘符の偉大な力も、
なんの役にも立ちません」と、戸田城聖は語ったとされている。

 モルヒネ中毒をも完治せしめるほどの「偉大な力」を持った護秘符で、アルコール中毒
ごときを治療できなかったのは、戸田二代会長には信心がなかったのか、あるいは、ただ
の食紅に過ぎない護秘符には、そもそも「偉大な力」などあるわけないのか、どちらなの
だろうか。学会員の皆さんに、どちらが正しいのか教えていただきたいものである。

 四番目の事例は、護秘符の力が及ばなかったのか死んでしまったわけだが、『人間革命』
では、事故死した学会員は「生けるがごとく微笑をたたえた崇高なまでの成仏の相」だっ
たなどと美化している。

 また、これを読んだ学会員が不信を抱かないようにするためか、転重軽受という教義を
持ち出して、被害者の死の正当化を試みている(転重軽受については、「創価学会の信心
の現証について」の補足において詳述した)。


>  戸田は、山之内俊彦の事故死を深く悲しんではいたが、その成仏については夢にも
> 疑うところがなかった。「先業の重き今生につきずして未来に地獄の苦を受くべきが、
> 今生にかかる重苦に値ひ候へば、地獄の苦しみぱっときへて、死に候へば人・天・三
> 乗・一乗の益をうる事の候」という転重軽受法門の実証にほかならぬことを、心に秘
> めていたのである。彼は先業の重かった山之内を悲しんだが、純粋な信仰の実践によ
> って地獄の苦しみのぱっと消えたことを、永遠の生命のうえから確信していた。
 (『人間革命』第八巻より引用)

 ※ 『人間革命』の登場人物のほとんどは仮名だが、上記引用の山之内俊彦は実名だと
  いう(七里和乗著『池田大作・幻想の野望』による)。


 事故の犠牲者である男子部員は、先業(前世での罪業)が重く、来世で地獄に堕ちなけ
ればならなかったところが、信仰の実践のおかげで、現世で重苦(事故死)にあい罪業が
消え、成仏することができたとの確信を戸田城聖は抱いたと、上記引用は言っているので
ある。まったく、涙が出るほど有難いご利益である。

 冗談はさておき、証明のしようがないため、何とでも言うことができる前世や来世を持
ち出して、護秘符の効果がなかったことをごまかし、しかもそれを「転重軽受法門の実証」
などと言ってのける厚かましさには、唖然とせざるを得ない。

 創価学会員という人たちは、護秘符や護符を飲んで病気が治れば信心の功徳、治らずに
死ねば転重軽受で成仏できたのだ、というインチキ臭い説明に疑問を感じない連中なので
ある。カルト信者の知性の欠如を「実証」していると言えよう。

 また、これらの『人間革命』に記されている護秘符の使用例に、結核等の感染症がない
のは、批判を避けたいとの計算に基づくものではないかと考えられる。

 どんな病気であれ、マジナイに頼ってまともな医療を受けないのは好ましいことではな
いが、感染症の場合、適切な治療を受けなければ蔓延のリスクがあり、より問題が大きい。
もしそうなれば、社会問題にまで発展しかねない。

 前回述べたように、創価学会は護秘符やそのマガイモノの護符を、大々的に用いていた
ので、実際には感染症患者でも、こうしたマジナイに頼った学会員はいたであろうが、世
間から批判を受けることを懸念して、『人間革命』にはそうした事例は記さなかったので
あろう。

 『人間革命』に記されているような、信心すれば病気が治るという学会幹部の指導や、
護秘符などのマジナイに頼ることが、医療の軽視をまねいたであろうことは想像に難くな
い。そしてその弊害は、決して小さなものではなかっただろう。

 植村左内著『これが創価学会だ』に、著者が企画した、現職の学会幹部と脱会した元幹
部とによる座談会でのやり取りが掲載されている。その中に、この問題への言及があるの
で引用する。


 ※ ●▲…現職幹部、○△…脱会者(幹部といっても本部ではなく地域の幹部である)

> ○ 御符もね。本来は年一度のお虫払いに大御本尊の煤をはらうのに使った奉書を、
>  これを細かく切ったものでしたが、今はそれではとても需要に追いつかない。そこ
>  で、末法の本仏たる池田会長が、学会員のために特に題目をあげて祈った、慈悲の
>  奉書の切れ端が御符だと称している。
> △ 本当に祈ったのか、慈悲なのか、それも怪しいものですがね。池田会長に病気を
>  癒す力があるというんだから、創価学会の大仏法哲学は素晴しいわけだ。
> ○ 護秘符にしても、ちっぽけなロイド版に塗った食紅を、シキミの葉で水に溶かし
>  て飲めば万病に効くというんだからね。
> △ 病気が癒せないような信心は信心でないって、そのために、いったい何人の創価
>  学会員が、あたら生命を亡くしたことか。
> ○ 完全な社会悪ですし、立派な犯罪だよね、これは。医者にかかりさえすれば、当
>  然百パーセント癒っていたはずの、盲腸炎だとか、肺炎だとか、胃潰瘍だとか、そ
>  うした患者に対して御符を飲ませたり、護秘符を飲ませたり、題目をあげつづけた
>  り、医者の勧告を無視して強引に患者を殺してしまっている。
> ● そうした例は、それは全国的のものですか? わたしは、うちの地区だけが例外
>  で、……というのは、盲腸炎の組長が死んだのです。うちの地区だけかと思ってま
>  した。
> ▲ わたしの町でも、そうした例がありましたが、これは全国でもはじめてのことだ
>  と、そう思ってました。
> △ とんでもないことです。全国的に例がありますよ。

 ※ 『これが創価学会だ』では「護符」ではなく、「御符」と記述されている。学会の
  元教学部長である原島嵩氏は「護符」という記述を用いているので、「護符」の方が
  学会内部での正式な名称だと思われるが、あるいは時期によっては、「御符」という
  名称も用いられたのかもしれない。


 正気の沙汰とは思えない話である。創価学会の非科学的なご利益信仰は、時として人命
をも損ねる狂信なのだ。

 学会員がインチキなマジナイを信じて、そのために命を落とそうと自己責任だが、連中
は「唯一の正しい宗教」などと自称し、その狂信の害悪を社会にまき散らし続けている。

 「人はパンのみにて生きるにあらず」という。自然現象を合理的に説明する科学や、そ
の応用である医学や技術だけでは、人間は満たされないものであるらしい。

 科学技術が発展した現在においても、生きる「意味」や「目的」、あるいは心の拠り所
を求めて宗教に頼る人がいるのは、やむを得ないことだと思う。

 かつて、宗教の役割は社会全般に及んでいた。前近代の社会は、洋の東西を問わず宗教
社会だった。そのような時代においては、聖職者の祈りには現代の医療に相当する役割も
求められていた。

 前近代の医療行為では、瀉血や水銀化合物の頓服など、人体に有害なものも少なくなく、
それと比べれば御秘符などの宗教的なマジナイの方が、害がない分マシだったと評価でき
なくもない。

 しかし、医学の進歩により多くの病気が克服された現代に、護秘符や護符のような前近
代的マジナイ療法を行なうことで、適切な治療を受ける機会を信者から奪い、しかも恥知
らずにも「科学と調和した真の宗教」を僭称してきた創価学会は、有害なカルトとして断
罪されるべきである。



補足 モルヒネ中毒の暴力団幹部について

 冒頭で挙げた護秘符の使用事例の中で、実際には唯一の完治した例である暴力団幹部の
話は、なかなか興味深いものなので、『人間革命』第八巻の記述に基づき補足する。

 この男は「暴力団の中でも有力な、ある組の命知らずの大幹部」であり、「暴力と威圧」
を得意としていた。

 戦前、胆石を病んだ際に、その激痛を緩和するために医師からモルヒネを処方されたこ
とがきっかけで中毒となり、中毒が進むにつれてただのモルヒネでは効かなくなり、コカ
インを混ぜて打つまでに症状が悪化した。

 戦後、モルヒネ中毒を治そうとしたものの、今度はヒロポン中毒となり、その後またモ
ルヒネ中毒に舞い戻ったという。『人間革命』には、以下のように記述されている。


>  彼は、いつか手に入れた二度とは使用してはならないといわれる特殊な頓服の劇薬
> が忘れられず、枕元に日本刀やピッケルを置いて、家族の者たちを恐喝し、その入手
> を強制した。妻と娘は泣き泣き、その頓服を手に入れるよう奔走させられた。


 その後、この妻と娘は創価学会に入信したが、この男の中毒はさらに悪化し、意識不明
の昏睡状態に陥った。地元の学会幹部の勧めで、護秘符を服用させたところ、数十日の昏
睡の後に回復し、禁断症状も薄らいだという。

 『人間革命』には、しばしば医師の診察を受けていたことも記されているが、治療につ
いての詳細な記述はなく、深刻な容態からの回復は、あくまでも護秘符の効果であったか
のごとく印象づけられている。

 護秘符のご利益に感じ入ったのか、この男も創価学会に入信し、大石寺にも参詣した。
そして完全に更生し、熱心な信者になったとされる。


>  彼の人を人とも思わぬ性癖は、今、親切な粘り強い行動として大いに役立つことに
> なった。彼は、家族のなかで一番の活動家となっていた。一家は、みるみる春風と笑
> 顔が絶えない家庭革命された一家になっていった。病床から起き上がって、五か月の
> 間に、彼は実に五十二世帯の人びとを折伏したのであった。


 この話は一見すると美談のようだが、はたして文字通りに受け取っていいものだろうか。
 この男がなし遂げたという、五か月で52世帯の折伏達成が、どのようにして行われたの
か、詳細な記述は『人間革命』にはない。

 しかし、元暴力団の大幹部で「暴力と威圧」を得意とし、つい数か月前まで日本刀を振
り回すヤク中患者だった男から、「親切な粘り強い」折伏を受けるなど、恐怖以外の何も
のでもなかったのではないだろうか。

 このエピソードは、往時の創価学会の折伏がどのようなものであったか、その一端をう
かがわせるものだと思う。