本書を執筆したのは「創価学会の明日を考える有志の会」を自称する、耳慣れない団体
である。本書の書きぶりでは複数の学会員が所属しているようであるが、実際のところは
不明(本稿では複数の著者がいる前提で論じる)。
著者らは池田大作を不世出の偉人として尊敬し、創価学会は世界平和を実現して人類を
救う偉大な使命を帯びた宗教団体だと信じる、末端ではあるが熱心な学会員らしい。
その著者らが本書を世に問うことにしたのは、創価学会の組織が疲弊している現状を憂
い、改革の必要性を痛感しているものの、本部にそれを訴えるツテがないことから、一念
発起したからだという。
本書によると、現在の創価学会では以下のような問題が顕在化しているらしい。
1 末端組織である「地区」の運営マニュアルが存在しないことから、責任者である地区
部長・婦人部長の資質によって、組織がうまく機能するか否かが大きく左右される。
リーダーシップに欠ける地区部長のために、機能不全に陥っている例もある。
2 学会員の個人情報の把握が不十分であるために、それぞれの個性や悩みに合わせた指
導を実施できていない。
3 勤行・唱題を行っていない学会員が多い。著者らの調査によると、ある地区では勤行・
唱題を行っていない者が70%余りもいた。こうした学会員は座談会にも出席しないこと
が多いものの、選挙の際、公明党に投票する割合はある程度に達していることから、こ
れまで問題が表面化していなかっただけなのだという。
4 親から子への信仰の継承が必ずしも上手くいっていない。子供の頃は勤行・唱題して
いた者でも、自立するとやらなくなることが多い。
5 折伏で成果を上げるた者は脚光を浴びるが、その後の教育は重視されていないため、
せっかくの新規入会者が人材として育ちにくい。
その他にも、創価学会内部での人間関係のトラブルが非常に多いとの指摘もあった(私
個人としては、この点に非常に興味をひかれるのだが、残念ながら本書では詳述されてい
ない)。
上記の問題に対して本書で提示されている処方箋の一つは、折伏を強力に推し進めるこ
とである。
著者らは〈幹部たちが広宣流布の使命を忘れてしまったために、組織全体が無気力にな
ってしまった。もう一度、戦後間もない頃の折伏精神を取り戻すべきだ〉(大意)と、訴
える。
> 無駄な会合をしないで、折伏を推進したり、折伏法を学ぶ勉強会を数多く開催して、
> 朝起きても「折伏」、夜寝る時も「折伏」と、明けても暮れても「折伏」一辺倒の流
> れを作ります。折伏は青年部を中心に推進し、若者をターゲットにして、三〇〇万人
> ~四〇〇万人の折伏の目標を立て、積極的に推進していきます。
この目標を実現するために、本部に折伏のサポートを専門に行う部署を立ち上げ、ノウ
ハウの開発や学会員への教育を行うべきだとも提言している。
昭和20~30年代の折伏大行進を、もう一度やるべきだと言わんばかりである。熱意は伝
わってくるが、学会員から何回も折伏を受け、さんざん迷惑をかけられた経験がある私と
しては、このようなカルト信者の悪しき目論見は、断固として粉砕すべきだと考える。
著者らのもう一つの提案は、「外部のコンサルティング会社に依頼すること」である。
> 現在の実態からは、間違いなく、創価学会には最新の経営理論と組織論を学び、経
> 験した人材は皆無に等しいことが見てとれます。
> 創価学会の経営層は、時代遅れのままで大きな組織を運営していることに気づかな
> ければなりません。創価学会の経営層は最新の経営理論をマスターしておかなければ
> ならないのです。(中略)一刻も早く最新の経営理論に精通した人材を多数採用し、
> 然るべき専門のコンサルティング会社などに依頼して、広宣流布と世界平和への戦略
> を作り、最新の経営戦略を導入することをお勧めします。
創価学会がかつて、外資系コンサルのアクセンチュアに依頼して機構改革を行ったこと
は著者らも承知しているものの、彼らの考えではその時の改革は不十分であり、外部から
の助言を得て、より徹底した改革を実施すべきなのだという。
具体的には、多国籍企業が行っているようなマーケティングや顧客管理、ガバナンスの
ノウハウを、包括的に創価学会に導入すべきだと主張している。
巨大組織を効率的に運営するために、大企業を参照して先端の経営ノウハウを取り入れ
るという案は、一理あるようではあるが、違和感を感じないでもない。
著者らは「信者を増やすことは、顧客を増やして売上を伸ばすことと同じ」とまで言い
切っている。確かに創価学会の本部職員にとってはそうなのかもしれない。
だが、本書の著者らは末端の信者であり、信濃町の本部職員と違って、創価学会から給
料をもらっているわけではない。
信仰上の問題の解決策を営利企業の経営ノウハウに短絡的に求める著者らの姿勢には、
信心による功徳(ご利益)を、企業が営業活動で収益を得ることと同じように見なす、創
価学会員に特有の思考様式が影を落としているものと考えられる。
さて、斯界では世界最大手のアクセンチュアでは不足だというのなら、著者らはどのコ
ンサルティングファームを見込んでいるのであろうか。
「改革への具体的な提案」と題された本書の最終章で、著者らは学会本部の幹部に向け
て以下のように訴える。
> まずは日本最大の広告代理店の「電通」に相談してみてください。そして私たちの
> 書いた本を提示して、この本の主張が正しいか否かを調べてもらってください。そし
> て私たちの指摘事項について、具体的にどのように進めたら良いか提案してもらって
> みてください。
電通といえば、数年前、長時間残業に追いつめられた女性社員が過労自殺し、大きな社
会問題になったことは記憶に新しい。
その後、改革はなされたであろうが、それでも著者らがいうような「最新の経営理論」
を実践しているエクセレントカンパニーと世間から見做されているとは言い難く、旧態依
然とした体質を残した企業というイメージは拭い難い。
学会員たちを寝ても覚めても折伏一辺倒の人間に仕立てて、折伏大行進のような暴挙を
再びやらかそうと考える著者らのことだから、「鬼十則」でも学会員たちに仕込むつもり
なのかもしれないが……。
創価学会は宗教法人であって株式会社ではない。だからこそ、学会本部は財務の使途等
の経営情報の公開を、頑なに拒み続けることができるのだ。
上場企業が株主に対して負っているような説明責任を回避している創価学会に、著者ら
が主張するような経営ノウハウを導入したところで、その効果を検証することはできない。
本気で学会本部に改革を促したいのであれば、まず財務の使途を公表することを迫るべ
きではないかと、私には思われる。
本書は創価学会員を対象として執筆されているものの、創価学会の衰退と信仰の形骸化
の実態について、内部の観察者の視点で語られているという点で、私のような外部の批判
者にとっても興味深い内容であった(提案されている改革案は、首をかしげたくなるもの
ばかりだったが)。
創価学会になど興味のない大部分の方にとっては無用の本であろうが、カルト信者の奇
妙な思考形態に関心がある方ならば、手に取ってみるのもアリかもしれない。
※ 『創価学会よ、大改革を断行せよ!』は、2020年2月4日付で発行された。
追記
ヤフオクに『支部活動のために―組織実務の手引き―』なる、創価学会の組織運営用マ
ニュアルが出品されていたようである(おそらくは本物)。
創価学会で「支部」とは、「地区」より一段階上の組織単位である。支部長以上の役職
に就くためには、こうしたマニュアルを理解し、下の者に適切な指示を出せる能力が求め
られるのだろう。
「『地区』の運営マニュアルがない」と本書の著者らは主張しているが、マニュアルに
準拠した組織運営ができない者でも、地区部長にまでならなれるということだと思われる。